星の王子さま バンドデシネ版 公式ホームページ

 



――――スファールには 『CROiSETTE』 というスケッチ集があるんですけど、普段からちょっとずつ、何かの度に描いていて、そのスケッチブックの中に20pくらいサンテグジュペリを描いた絵が何枚も何枚もあるんです。サンテックスの写真は数十点残っていますけど、おすまししていたり、笑っていたり…、それを基に、サンテックスの笑った顔、怒ってる顔、タバコ吸ってる顔、それから照れている顔、そういう色んな表情を作る、それは何かっていうと、全部このBD版の『星の王子さま』の中に出てくる顔なわけですね。

――――このコミックが成功したもうひとつの理由は、語り手であるサンテグジュペリ本人を出演させて、王子さまとふたり並べることによって、話にぐんと奥行きを持たせて、ドラマチックにした。もともとは、サンテグジュペリは原書では語り手ですから、会話はもちろんあるけど、自分の姿は見えない。
それをスファールはサンテックス本人を描くことで、言ってみれば彼自身、語り手自身と距離を置いて、すこしからかったり、いじわるを言ったりする。最初のところでタバコの煙が出てくるんですけどね、そこで、有名なうわばみと帽子と象のあの絵の話をしているんだけれども、煙が「あんた飛行機直さないと死ぬよ」と言って、「俺は消えるよ、煙だもん」と捨て台詞を吐く。そのついでに「それに子ども向けの本でタバコを吸うのはどうかと思うよ」といってからかう。(観客 笑)

――――そうやって、言ってみれば砂漠という舞台にサンテグジュペリと王子さまの両方が出てきて芝居が始まる、それをこちら側からスファールが操っているというこの仕掛けがとても上手くいったんですね。


―――しかし、それを言うならサンテグジュペリ自身も、自分と王子さまとの対話という形で『星の王子さま』を書いています。
つまり、普通、おとぎ話というのは


むかしむかし王子さまがいました
そして、小さな星に住んでいました。
バラとちょっと仲が悪くなって、
星から星を巡って、
王子さまは地球という星に行きました。

という風な神様の視点、客観的な第3者の視点、外からの視点だけで記述していくと、文学として深みが出ないんですよ。
それは文学の創り方として一種単純なやり方で、そうではなくて、彼自身が出会った話として、想い出話として、非常に深く自分の感情をこめて書いている。
(サンテグジュペリは)王子さまがいなくなって本当に悲しくてしょうがないわけでしょう。そういうお互いに愛する仲になって、そして失ったという形にすることで、小説として優れたものになった。

――――ついでに言いますとね、砂漠に墜落したというのは実話です。1935年ですから、彼が35歳のときです。死ぬ10年前。さっき少し言いましたけど、いちばん最短の飛行記録を作った飛行士に15万フランを払うという懸賞があったんですね。飛行機の初期によくあったことで、より優れた飛行機を作って、より遠くへ早く安全に飛べるようにしようと、懸賞をつけて、最初にそれを達成した人にはコレだけ、というのがあって、サンテックスは15万フランを手に入れようと思って、アンドレ・プレヴォというエンジニアとふたりで、さっきお見せした、この中に出てくるシムーン型飛行機を(初期のフランスの郵便飛行でよくつかわれた飛行機)一機調達して、それでパリを離陸した。サイゴンまで上手く着けば、15万フラン弱もらえるはずだったんだけれども、サハラ砂漠の上を飛んでいるときに墜落して、4日目でしたっけね、救われたのは。
サハラ砂漠には水がほとんどない。だからすぐ脱水に陥るわけですよ。幻覚が見え始めて。で、ふたりでともかく歩いたんだな。そこで彼は死んでいたのかもしれないんだけど、幸運なことにベドウィンの砂漠の民に救われて、それで生きて帰ることができた。
その4日間のことは、彼は『人間の大地』という本の中で詳しく書いてくれていますけど、その体験と戦時中の絶望感からくる祈りみたいなもの、それから、サンテックス自身がちょっとしたスケッチがうまい、その能力すべてを組み合わせてこの星の王子さまという本が出来た。
そのとき、彼はもちろん、こんなに世界中で彼の本が読まれるなんで思っていなくて、ほんの余戯ですよね。自分に対する慰めのつもりで作った本なんでしょうけど、でも話に深みがあって、やっぱり精神の奥へと訴える力がある。そして、あの絵が素人っぽいけど、なんていうか、上手い絵を描いてやろうという人には絶対に描けないような不思議ないい絵ですよね。そして決して大きく長い話ではない。子どもでも読めそうでいて、実は大人になっても読み切れないものが残る。そういういくつものコンディションが重なって、これは世界的なベストセラーになり、ロングセラーになり、まだこれからもずっと読まれ続ける。また今回のこの『星の王子さま BD版』のように、新しいものがそこから生まれる。そういう力を持ったものになったわけですね。

 

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