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相手の無意識に介入して「欲しい!」を引き出す禁断の即時錬金術/岸正龍

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自身の経営するアイウェアブランド MonkeyFlipが、オープン以来22年間で培ってきた成功の道筋。「あなたの売り方は、いい意味でズルい」マーケティング界の大物にそう言わしめた、その販促法や金儲け術について語ります。

モノなんて欲しくない時代

あなたは最近1万円以上で、何か買いましたか?

「最近1カ月間で1万円以上のモノを買った人はいますか?」私はいつも、講演をするときは冒頭で皆さんにこう質問をさせていただいています。すると、手が挙るのはちらほらです。
女性の方ですとお買い物をされている方もいらっしゃいますが、男性はほぼモノを買っていません。この質問から何を言いたいのかというと、実はいま多くの皆さんは、モノなんて欲しくないということです。もちろん、必要なモノは買います。
たとえばスーツでも、前のスーツが破れたとか、秋冬物の季節だからというなら買います。欲しいからというより、必要だから買っているのです。

僕自身はMonkeyFlipというアイウェアブランドを経営しているのですが、実際に店頭に立っているとそれをよく感じます。5年くらい前、もう少し踏み込んで言うと東北に地震が起きる前は、衝動買いがよくありました。それが、震災以降は「1回考えていい?」と返されるようになりました。
1回考えた人は戻って来ない確率が高いです。買うか買わないかという選択であれば、お金の方が大事な時代になったということかもしれません。悩んだ末に買わずにお金が残った快感の方が大きい、本当にモノが売れない時代になったのです。

大手の襲来、売上半分に

僕は1996年にMonkeyFlipを起こしました。ブランドを立ち上げてから数年、とても順調に経営が進んでいた頃にある事件が起きました。低価格を売りにするアイウェアのチェーン店、 JINSが近所に出店することになったのです。
地図で見ると、当時我々が経営していた3店舗のちょうど間に位置する商店街の角地で、床面積も3店舗を併せたより広い大きさでした。検眼機器を扱っている業者さんから「社長、知っていますか!」と電話をもらい、JINSが入ることを知ったのですが、そのとき僕は「終わったな」と思いました。

どんなマーケティングも価格には勝てないと、僕はこの時こっぴどく知らされました。しかも、言うのは悔しいですが僕が体験した現実で言うと、地元愛より価格愛でした。その結果、僕の店の売上は半分になってしまいました。
売上半分ではお店をやっていけないのは皆さんもよくご存知だと思います。売上が半分になった半年間は、広告デザインのアルバイトをしたりして凌いでいました。この事件を通して大手には勝てないことをしみじみと知って、どうすればいいのだろうと考えに考えて、なんとか復活できたのが、これからお話しする無意識に介入するマーケティングのやり方です。

「売れる」ための頭の体操

モノ滑りから脱却

問題です。あなたは生協の発注係だとします。プリンを20個発注するところ、間違って4000個発注してしまいました。さあ、どうやって4000個を販売しますか? 賞味期限は3日です。
実際あった事例ですが、ご存知の方も答えは知らなかったことにして考えてみてください。1日20個売れる商品なので、3日だと普段なら60個しか売れない商品です。1分間、考えてみてください。

まず最初に考えるのは「値下げ」ですよね。誤発注なので値下げをするのは仕方ないと思います。次は、「抱き合わせ」。売れている商品との抱き合わせ販売です。もう少し知恵を使うと「職域販売」をしたらよいのではないか、という案が出てきます。大学なので、その周りの市役所とか小学校とかに協力を仰いで販売できるのではないか。あるいは「委託」。ヤクルトレディとかに。あとは「何かの会員になったら商品をプレゼント」などが案として挙がるでしょうか。

この、「値下げ」や「抱き合わせ」というのは、「商品」をどうするか考えています。「職域販売」や「委託」などは、「マーケット」、「販売チャネル」を変えているだけです。ここで想い出していただきたいのです。多くの人はモノはいらないのです。
そもそも1日に20個しか売れないプリンを値下げしたら売れますか? 120円のプリンを60円にしたら売れますか? 抱き合わせしたら売れるでしょうか? もちろん多少は売れるでしょう。でも3日間で4000個売れるでしょうか?
僕は売れるとは思えません。この「モノ」から考える発想を、僕は独自に「モノ滑り」と呼んで自分自身を諌めています。僕たちは普通に「どうしたら売れるか」を考えると、自動的にモノ側からの発想になってしまう。それを回避するための合言葉のようなものです。

釣り人ではなく、魚の気持ちで

ダイレクト・レスポンス・マーケティングを勉強された方は何度も聞いた話だと思いますが、釣り人が「自分」だとすると「商品」はルアー、エサです。どこで釣るのか、海や川にあたるのが「マーケット」と呼ばれます。「競合」も「マーケット」に入ります。そして、魚が「お客さま」です。

魚を釣るには魚のことを考えないといけません。ビジネスで言えば「お客さま」のことを考えるべきなのです。しかし残念ながら、僕たちは「商品」から考えてしまうように癖付けられてしまっています。僕自身、セール・スコピーライティングを請け負っていた時代がありました。依頼を受けて「それでは色々聞かせてください」と言ってクライアントさんにお話いただくと、ほぼ90%は商品に関することです。残りの10%が競合の話です。
それで、「商品を買っているお客さまはどんな人なのですか?」と聞くと「お客さんは……色々だよ」と返ってくる。「色々とはどんなお客さまですか? 例えばどんな人がいますか?」と聞くと「担当に聞いておきます」という感じでお客さまについて語られることはありません。

けれども、大事なのは”Think like fish, not fisherman.”の考え方。釣り人ではなくて魚の立場で考える。釣りをする友人に話を聞くと、釣りの名人とはとにかく魚の気持ちが分かる人だそうです。
今日はこういう潮の流れだから、この辺にこれくらいのエサをあげれば釣れるという発想をする。下手な人こそ道具にこだわるといいます。高い道具を持つだけでは上手くは釣れません。

発注ミス、プリン祭り

前述のプリンの誤発注は、実際に起こった事件でした。実際にはどのように解決したのでしょうか。検索してもらうと「発注ミス・プリン祭り」というのがでてきます。この場合、買った人はモノを欲しいと思っていない。ただ、心が動いて結果としてプリンを買った。行動経済学や脳科学の分野でも「人は感情でモノを買い、あとから理屈で正当化する」といわれています。

僕は先日帽子を買いました。帽子の頭にブルーの鳥がついているものです。お店で欲しいなと思って買ったのですが、そのとき店員さんに「その帽子は作家さんの一点物ですよ」と言われて買ったのです。でも、まったくその帽子に興味がなかったとします。そんな状態で「作家の一点物でもう手に入らないかもしれない」と言われても、買わなかったと思います。むしろ、お店から出てしまうかもしれない。

つまり、同じことを言われても、最初に自分が「これいいな」と思っているかどうかで違ってくるわけです。最初にいいなと思っているから「作家の一点物でもう手に入らない」と言われ「お似合いです」と言われたら、思わず「買います!」となってしまう。つまり、お客さまが最初に「それ欲しいかも」と思っていなければ、何を言っても無駄なのです。むしろ、言えば言うほどウザくなるかもしれない。最初の「それ欲しいかも」という気持ち、ここを動かせたのが僕が復活できた最大の要因でした。

相手の無意識に介入する

僕らの無意識はこうなっています。いろんな学派があるのですが、意識が受け取れるものの何倍もの情報を無意識が受け取っていると言われています。意識が3%なのか5%なのか分かりませんがほんの一部分であることは間違いありません。
行動経済学でノーベル経済学賞をとったリチャード・セイラー博士は「人は感情でモノを買い、後から理屈で正当化する」と言っていますし、脳科学では「人間に自由意志はない」とも言われています。全部無意識が決めてしまって、それに沿って買っていると言われています。

このセイラー博士がイギリスのスーパーマーケットで行った実験をご紹介します。ドイツとフランスのワインを4本ずつ8本並べ、1日交代でフランスとドイツの曲を流した。すると、フランスを想起させる曲を流した時にフランスのワインを選んだ人は77%だそうです。
次の日、ドイツの曲のときを流したときにドイツのワインを選んだ人は73%です。この実験が面白いなと僕が思ったのは、この後に博士はスーパーの出口でワインを買った人に「フランスのワインを買ったのは、フランスの曲が流れていたからですか?」と質問をしていることです。
この質問にYesと答えた人は、7人に1人だそうです。14.3%しかいない。ほとんどの人が意識をせずにただ曲を流れているからフランスのワインを買っている。無意識に訴えかけるとはこういうことなのです。なぜか欲しいと思っている状況です。

逆に「サカナサカナサカナ〜」という歌がありました。この歌を聞いても、多くの人は魚を買いません。魚売り場に行って、この曲がかかっていると「魚を食べると頭が良くなるなんて余計なお世話だ!」と思ってしまいます。かたやフランスの曲が流れているとフランスワインを買ってしまうのに、「魚を食べると頭が良くなる」という曲が流れていると買わない。なぜでしょうか?
言葉で聞こえてくるものはすべて「意識」だからです。「意識」に訴えかけると心理的リアクタンスという抵抗が出ます。もともと魚が食べたいなと思っていたらいいです。けれども、肉にしようかな、魚にしようかなと思っているときにこの言葉を言われると、「意識」がウザいなと感じてしまうものなのです。

禁断の即時錬金術とは

ハロウィン拡大の要因

上の表をご覧ください。ハロウィンだけがなぜ拡大しているのでしょうか。答えは簡単。ハロウィンだけが、恋人同士や家族同士に限定されず、皆で楽しめる『お祭り』だからだと僕は思います。
そして、僕がやってきた禁断の即時錬金術というのも、この『お祭り』を作ることです。私たちは祭りと聞いただけでワクワクします。そのようにDNAに組み込まれているからです。全然知らない土地に行って今日お祭りだと言われると「ラッキー!」と思って「行ってみよう」と思いませんか。
太古の時代から人の文化にはハレとケがあって、やはり祭りはハレの場なので皆が好きなことなのです。だから、お祭りがあれば、皆それに乗りたいのです。理屈ではなくて、DNAに組み込まれていることなのですから。ですから、「発注ミス・プリン祭り」も祭りなのです。皆で祭っている。

赤いフレームをいかに売るか

では、どうやって『お祭り』を商売に組み込んでいけばいいでしょうか。ここでまた、皆さんに考えていただこうと思います。MonkeyFlipの事例です。赤色のフレームは、ほぼ売れません。うちの顧客は男性がほとんどなので、黒かべっ甲かグレーがよく売れます。でもそればかりだとお店がどうしても暗くなってしまうので、赤色のフレームは売れないと分かっていても作らなくてはいけない。売れるのは1カ月によくて2本です。だから必然的に不良在庫になっていき、100本ぐらいに達してしまいました。
さて、この赤色のフレームをどうやって売るか? 売れてないのだから、当然のごとく値下げはします。でも、値下げをしても売れて月に2、3本です。ところが僕が考えた『お祭り』では、2週間で100本を売り切りました。さて、どんな『お祭り』をしたと思いますか?

僕らが考えた『お祭り』の名前は『RED DEVIL PARADE』。ご来店いただくときに「赤いアイテムを1点着用の場合、対象フレームが20%オフ、2点なら30%、全身赤だったら50%オフにします」というものです。結果は、大成功でした。ネットにも来店者の写真をあげていたので、とても盛り上がりました。家族連れで赤いアイテムを着用して来てくれたり、友人の黒紋付染め屋さんは、白い着物で来店して眼鏡を取りに来る時には赤い色に着物を染めてくれたりしていました。

こうした企画をどう立てていくかということですが、スタッフさんを交えてどうやったらお客さまの心が動くかな、どうやったら『お祭り』になるのかなということを考えてみてください。その際に大切なのは、企画目的と『お祭り』の重なるところで考えないといけないということです。
たとえば先ほどの『RED DEVIL PARADE』の目的は在庫をなくすことだったわけです。その在庫をなくすという目的を『お祭り』として人の心を動かしながら達成するということです。

祭りに必要な3つの構成要素

ここからはテクニックの話です。僕が『お祭り』を企画するときに必ず組み込んでいる構成要素が3つあります。プレミアム、ニュース、オファーです。それぞれついてご紹介していきます。

プレミアムは、特別、限定、あなただけという要素です。祭りというのは地域限定、期間限定だから楽しいわけですから、プレミアムという要素はそもそも持っているとお考えください。

それから、ニュースです。先ほどの『RED DEVIL PARADE』はMonkeyFlip Rossoという店舗がオープンした月、いわゆる周年月に行いました。毎年周年月には何か企画を行っています。そこを踏まえて「今年の周年企画はRED DEVIL PARADEです」としました。
これを周年月でもないに「RED DEVIL PARADEをやります」と告知すると「ああ、売り出しだね」と思われてしまう。それが、「周年月なのでやります」というような枕詞があると「今年の周年企画はそうなんだ」と納得してもらえます。

ニュースの中には社会のニュースと会社のニュースがあります。どちらが効果的かといえば社会のニュースです。もし自分の店が広島にあれば、赤い眼鏡を売るのは簡単だと思います。カープの優勝記念としての『お祭り』にすればいいのですから。一般に社会のニュースを使う手としては「今日は何の日」と調べてみてください。毎日「何らかの日」になっています。それに引っ掛けてやればいいのです。「今日は○○の日だから、これをやります」と言えばいい。
それを言うことによって、みんなそのお祭りがあることを納得してくれる。だいたいのお祭りはそうです。豊穣を祈年してやりますとか、村の平和を祈念してやりますとか。

以上ご説明したプレミアムとニュースは集客に役立ちます。けれども、来るだけでお金を落としてくれなかったら、ビジネスは干上がってしまいます。昔、トナカイを店の前に呼んだ事例がありました。たくさんの方が集まったのですが、皆さんトナカイを見に来ただけで帰ってしまった。これでは意味がありません。お金を落としてもらうためのポイントがオファーと呼ばれる要素です。
これは、値引き、おまけ、保証です。最後の最後、お客さまはどれだけ心が動いていても背中を押して欲しいのです。無意識では「欲しい!」と思っていても、最後に“意識さん”が「こんなところでお金を使っていいのだろうか?」と善悪で判断しようとする。そのときに「いいんだよ、だっていまはお得だから」と背中を押すと買っていただける。その背中を押すのがオファーの役割です。

まとめますと、禁断の即時錬金術とは「無意識に行動してしまう仕掛けを作ってください」ということです。釣り人のようではなく、魚のように考えてください、そのための方法として心が踊る『お祭り』をつくってください、ということです。モノではなくて、心を動かすことが大事なのです。

(画像提供:iStock.com/pixelfit)

岸 正龍(きし せいりゅう)

株式会社浅野屋 代表取締役 / ビジネス心理コンサルタント
1963年 名古屋市中区大須生まれ
上智大学経済学部経済学科卒業
多摩美術大学美術学部芸術学科除籍

大学卒業を前に萩本欽一さんの事務所で芸人になるが、お笑いが「言葉」に大きく左右されることに魅せられコピーライターに転身。徒弟制の企画室で365日24時間勤務の修業を積み、デザイナーに転職。竹下通りを席巻したタレントショップ数店のグッズ企画とデザインを担当し、すべての店を日商100万円超の繁盛店に成長させる。

その後、実家である宝石店に入店。32歳のとき、社内独立のかたちで眼鏡雑貨店『モンキーフリップ』をオープン。開店当初は7坪の小さな店だったが、他に類を見ないデザインと「人の心の動きにフォーカスしたマーケティング」を武器に年商が5億円を突破すると、テレビや新聞などマスコミが殺到。取材数は100を超え、1,500社が集うマーケティング団体で年間最優秀賞を受賞した。

特にオリジナル商品の開発力、販売力には目を見張るものがあり、自社で発売した600以上のモデル中、不良在庫となったのはたった2モデルという実績を持つ。2004年に本を出版したことで声がかかるようになった講演やセミナーは「面白く、役に立つ」と評判を呼び、大手セミナー会社や商工会議所をはじめ、商品開発学会や小学校から大学まで幅広く招聘されている。

他方、ビジネスを展開するなかで出会った「ビジネス心理」をきっかけに、心理学、エニアグラム、エリクソン催眠、コールドリーディングやメンタリズムなどを貪欲に探求。最終的に無意識に働きかける実践型の心理誘導術を開発。本や講座を通して3万人以上に伝え、倒産寸前のIT会社が年商1億円を超えたり、スタッフ不足に苦しんでいた治療院が採用率100%を達成するなど多くの成功例を生んでいる。

いまなお名古屋に拠点をおく現役経営者であることから「使えることしか、伝えない」を掲げ、自らを成功に導いた知見を広めている。日本ビジネス心理学会上級マスターの資格を持ち、一般社団法人日本マインドリーディング協会の理事を務めるメンタリストでもある。

著作
『超人気キラーブランドは小さな路地裏のお店から』(フォレスト出版)
『相手を完全に信じ込ませる禁断の話術 エニアプロファイル』(フォレスト出版)

受賞
2002年 ワクワク系マーケティング実践会 グランプリ
2010年 一般社団法人福井県眼鏡協会 アイウェア・オブ・ザ・イヤー2011 メンズ部門
2013年 公益財団法人日本デザイン振興会 グッドデザイン賞

 


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