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なぜ今、世界は大麻の時代なのか?医療大麻とCBD/正高佑志

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医療大麻に対する拒否感はどこからくるのか。てんかんや脳腫瘍など難病の治療へ効果が期待される医療大麻、CBDについて、情報がガラパゴス化している日本に風穴をあける活動をしている医師・正高佑志氏が国内外から集めた論文や事例をもとに語ります。

大麻は「ダメ。ゼッタイ。」なのか

世界は大麻の時代

日本では、いまだ「大麻」と言うと逮捕が連想される世の中です。2019年も有名無名を問わず、多くの人たちが逮捕されました。年間約4,000人という史上最悪のペースです。大麻を所有しているのではなく、情報を発信しただけで逮捕されたケースもあるそうです。
しかし、海の向こうを見てみると世界は大麻の時代と言っても過言ではない状況になっています。2018年、北米大陸で大麻の合法化が大きく進みました。1月1日にカリフォルニア州で大麻が合法化され、10月17日にはカナダ全土で嗜好品としての大麻が合法化されました。嗜好品としての大麻も盛り上がっていますが、医薬品としての大麻をめぐる状況もここ数年で変わってきています。医療大麻も現在では約50カ国で合法化されています。

大麻は漢方薬

なぜ世界では大麻をめぐってこのような変化が起こっているのか。これを理解するためにはまず、医療大麻、覚せい剤、医療用麻薬、MDMAとLSDの区別がつかないと話になりません。日本では残念ながら、一緒くたにして「ダメ。ゼッタイ。」と言っている状況です。
大麻は、植物です。アジア原産の一年植物で、葉に白い粉のようなものがつきます。これはトライコームと呼ばれここにTHCやCBDなどの有効成分が含まれています。嗜好品としての大麻は、乾燥させてタバコのように巻いて火をつけて吸うものを言います。大麻=注射器を連想する人がいますが、これは間違いです。
トライコームには、大麻にしか含まれない特別な成分が100種類以上入っていると言われます。これを総称してカンナビノイドといいます。その他大麻には、植物の香りの源となるテロペノイドと呼ばれる成分が含まれています。このカンナビノイドとテロペノイドが一体となることで、様々な病気に効くと考えられています。このことから大麻は漢方薬であるとも言えるでしょう。漢方薬はいろんな植物の薬効が合わさってハーモニーとして力を発揮しています。

大麻の危険性はお酒より低い

日本人の多くは大麻は「ダメ。ゼッタイ。」と信じています。しかし、科学的な根拠によって得られた知識はみなさんの常識とは大きくかけ離れています。『LANCET(ランセット)』という有名な医学雑誌で2007年に発表されたイギリスの論文があります。イギリスではありとあらゆるドラッグが流通しており、厳しく法律で規制されているものもあれば、合法のものもあります。けれども、規制の厳しさと体への影響がどうもちぐはぐなのではないかと言われていました。そこで、本当は何が安全で何が危ないのかドラッグをランキング付けする研究が行われたのです。
その結果、一番危険とされたものは「ヘロイン」でした。しかし注目すべきはみなさんの身近にあるもののなかで、一番最初に危険ランキングの上位に登場するのは「酒」だということです。次に「ベンゾジアゼピン系の睡眠薬」、次は「タバコ」と続きます。「大麻」はその次の次にでてきます。大麻の危険性というのは、酒や睡眠薬、タバコと比べても低いというのが科学的な評価です。ちなみに「LSD」は大麻より低く、「MDMA(エクスタシー)」の危険性はさらに低いと評価されていますが、これらはイギリスや日本でも厳しく法律で規制されています。

麻薬取締の歴史

アメリカの規制と合法化

なぜ大麻は酒より安全と言われるのに、日本では厳しく取り締まられているのか。それを理解するには、まず、アメリカの麻薬規制の歴史を知る必要があります。アメリカでは、1937年にマリファナ(大麻)課税法という法律が誕生しています。さらに、ベトナム戦争を経てヒッピームーブメントや黒人の公民権運動による混沌の反動により、1970年に大麻だけではなくLSDなどの主要なドラッグを厳しく規制する規制物質法が制定されました。これによって大麻を嗜好品としてではなく、体調管理のために使用する人たちまで逮捕されるようになってしまいました。アメリカではこれ以降、医療大麻の合法化闘争が始まります。
医療大麻の合法化闘争が一気に盛り上がったのが1990年代のカリフォルニアでした。きっかけになった病気がAIDS(エイズ)です。当時は触っただけで感染すると誤解されており、AIDSの人たちは迫害されていました。そんな中で、AIDSの人たちは大麻を吸うと神経痛が楽になるとか、大麻を吸っている人の方が長生きするといった薬効に気が付きました。そうして世間に見放されたAIDS患者の自己治療の手段のひとつとして医療大麻が使われはじめ、市販されるようになりました。その活動を牽引した人物が、デニス・ペロン氏です。彼は恋人をAIDSで亡くした人でした。AIDS患者が大麻をシェアできる場所として「カンナビス・バイヤーズ・クラブ」という場所を作り、署名を集めて医療大麻を合法化する活動を行いました。その活動が実を結び、1996年にカリフォルニアでは医療大麻が史上初めて合法化されました。

ミクリヤのリスト

このときに、医療大麻をどんな病気に対して適用するのかを決める過程で大きな貢献をしたのが日系人のトッド・ミクリヤ医師です。父親が日本人で、第二次世界大戦ではハーフとして非常に辛い経験をしていました。そんな経験から、マイノリティ側に立つスピリットを持つようになり、医療大麻が合法化される前から、大麻を使っている人に話を聞き、どんな病気に使っているのか情報を収集していました。合法化にあたりミクリヤ先生は「医療大麻の適応は、医療大麻を必要とする全ての患者の全ての症状である」と主張し、カリフォルニアでそのまま採用されました。彼が作った「ミクリヤのリスト」というものがあります。ここに載っている病気や症状は200から250あることから「医療大麻は250の症状に効く」と言われています。ここには、みなさんにとって身近な病気も多く含まれています。

エンド・カンナビノイド・システムの発見

エンド・カンナビノイドとは

医療大麻の効果は1990年代に明らかにされた科学的な根拠に基づいています。それが「エンド・カンナビノイド・システム」と呼ばれるものです。
そもそも、人間の活動というのは電気的な細胞の興奮と、細胞と細胞の間のシナプスと呼ばれるところで起きる化学物質のやりとりで成り立っています。この化学物質は神経伝達物質と呼ばれ、ドーパミンやアドレナリン、セロトニンなど様々な種類があります。それとならんで、エンド・カンナビノイドという一連の化学物質分が人間の体の中に存在することが1992年に明らかになりました。エンドというのは、人間の体内を指します。カンナビノイドというのは大麻の成分です。人間も動物も体内で大麻の成分と同じような物質を作って使っているのです。

エンド・カンナビノイドが不足する病気

エンド・カンナビノイドは数秒でぱぱっと作られては数秒で分解されることを繰り返しながら、人のあらゆる組織で体のバランスを整える働きをするとされています。このエンド・カンナビノイドという神経伝達物質が、ストレスや加齢で減少したり、生まれつき足りない人がいるのではないかと考えられるようになりました。
すでに他の神経伝達物質の不足が原因の病気はいくつか明らかになっています。例えばドーパミンが不足するとパーキンソン病を発症します。鬱病の人はセロトニンが足りないのではないかと言われています。認知症の人にはアセチルコリンという神経伝達物質を増やす薬が処方されます。では、同じように神経伝達物質であるエンド・カンナミノイドの不足で起こる病気はないのですか?と言われると、理論上ある気がします。ただそれが、エンド・カンナビノイドが足りない病気だとまだ誰も確信できていないだけです。

医療大麻のメカニズム

大麻がなぜこんなにもたくさんの病気に効くのですか?という問いの答えは、人の体の中でも大麻と同じ物質が作られていて、体のバランスを整える仕事をしているということです。ストレスや加齢、もしくは生まれつき足りなくなっているという不具合に対して、植物由来のカンナビノイドを補うことで、みなさんの体のバランスが本来のところに近づき調子が良くなるのではないか。これが、医療大麻のメカニズムです。解明されたのは研究が始まり20年が経った1990年代のことでした。さらに医療大麻に追い風となっているのがCBDという2010年以降に知られるようになった成分です。

CBDの発見

CBDはハイにならない成分

大麻に含まれる最も有名なカンナビノイドはTHCで、長年研究をされてきました。その他近年注目を集めているのがこのCBDという成分です。これにはTHCのような精神作用がありません。ハイにならないから使いやすい、医薬品として使えるということで、注目されるようになったのです。
CBDが見つかったのは意外と古く、1963年です。イスラエルのラファエル・ミシューラム博士が発見しました。それが2000年代になぜスターダムにのし上がったのかというと、これもやはり舞台はカリフォルニアです。カリフォルニアでは、大麻は農作物です。農作物は品種改良が可能です。嗜好品としての大麻を作るときに、人はTHCの濃度を上げることを目指してきました。そんななかで100株か1000株にひとつ、突然変異的に全くハイにならない大麻が現れました。しかしそれらは役に立たないということでこれまではゴミとして捨てられていました。

高CBD品種の研究プロジェクト

これが変わるきっかけが、2008年頃北カリフォルニアに完成した、大麻のなかの成分を調べることができる「Steep Hill」という商業的な検査機関です。そこに自分の育てた大麻を持って行くと、どんな成分がどれくらい入っているのか調べられます。ここに、ハイにならない大麻を調べに行った人がいました。そうして、THCが少ない代わりにCBDが多く入っている高CBD品種という大麻が見つかりました。このCBDが医薬品として役に立つのではと研究を始めた人がいました。高CBD品種の種を大事にして情報交換をしようという活動をしているのが、Project CBDのマーティン・リー氏です。現在のCBDブームの仕掛人と呼ばれている人です。

「シャーロッツ・ウェブ」による治療

この活動が大ブレイクしたのは、2013年のことです。コロラドに生まれたシャーロット・フィギという女の子のドキュメンタリーがきっかけでした。彼女は生後半年頃から痙攣が始まり、1日に50回、100回と痙攣を繰り返すようになりました。病院の薬は何を飲んでも発作が収まらない。そこで両親がこのままでは死んでしまうと医療大麻を使うことにしました。当時コロラドでは大人に医療大麻を使うことはできましたが、この年齢の子供に医療大麻を使うことは躊躇われる世論が多い状況でした。そんななか賛同してくれる小児科の先生を募り協力を得て、高CBD品種のオイルを分けてもらい使用したところ、劇的に痙攣が収まりました。現在では「シャーロッツ・ウェブ」と呼ばれて流通しています。

医療大麻の合法化が進む

この話を世間に知らしめたのがサンジェイ・グプタ氏という医者です。CNNのご意見番的な人物で、最初は医療大麻に反対の立場でした。シャーロットちゃんに会い、自分でも勉強をしたところ考えを180度改め、「医療大麻は存在しますし、役に立ちます」と謝罪の気持ちとともに作ったドキュメンタリー番組が『WEED』です。これが全米のお茶の間に流れました。すると、てんかんの子供をもつ家族が一斉に立ち上がりました。こうして、医療大麻合法化の署名集めが始まったのです。アメリカは州の法律が国の法律に優先をするので、住民投票を行って州の法律を変えてしまえば、国がなんと言おうと医療大麻はOKとなります。この署名を集めて住民投票でルールがひとつひとつ変わっていく法改正のドミノ倒しが行われた結果、今アメリカでは33州で医療大麻が合法化されています。CBDに関しては全土50州でOKです。嗜好品としての大麻も11州で合法化されました。

そして、2018年6月に医薬品としてのCBDオイル「Epidiolex(エピディオレックス)」がアメリカの厚生労働省(FDA)の承認を得て薬として認められました。今まで医療大麻は代替医療だったのですが、医者が処方箋を出して保険でまかなわれる医療として流通するようになりました。
アメリカでは合衆国の法律も変わりました。2018年の年末に農業法が改正され、THCというハイになる成分が0.3%未満のものは大麻ではなくヘンプという別のカテゴリになり、合法的に栽培して出荷できるようになりました。今アメリカではCBDが高いヘンプのファーストシーズンの収穫が終わったところです。

80年前成立の大麻取締法

一方、日本には1948年にできた大麻取締法が今でもそのままの形で残っています。これによって、医療目的での大麻の使用も禁止されている状況です。リタリンやコンサータなど覚せい剤の医療用麻薬は医療目的で使用できますが、その他は医薬品として使えません。
僕の身近にも実際にCBDがてんかんに対してよく効いたお子さんの事例があります。この子は生まれて1日目から痙攣し始めてそのまま病院に半年ほど入院していました。大田原症候群という珍しいてんかんの症候群と診断されました。これまで使った12種類ぐらいの薬はどれも効かず、CBDを知ったご両親が、インターネットを介して僕にメッセージをくれました。当時は体重も8キログラムしかなく、痙攣回数も多いのでCBDを飲んでみる価値があるだろうということで、販売している業者さんにサンプルという形で供給してもらって、臨床試験と同じ体重1キログラムあたり18ミリグラムの量を飲みました。すると、飲む前は一日約40回も毎日痙攣していたのが激減し、大きな発作が出なくなりました。
僕もこの結果に驚いて、シャーロットちゃんと同じドラベ症候群の家族会の方々に報告したところ、聖マリアンナ医科大学の先生を紹介してくださいました。協力の輪が広がり、3月には先生方とお付き合いのあった公明党の秋野公造衆議院議員が国会で動いてくださいました。現在、厚生労働大臣の許可のもと医療大麻の臨床試験実施に向けて調整を行っているところです。このように、日本でもようやく風向きが良い方向に向かっています。大麻取締法という法律を変えたいと僕は思っています。

(画像提供:iStock.com/OlegMalyshev)

正高佑志(まさたかゆうじ)

1985年生まれ。熊本大学医学部医学科卒。医師。
2016年、カリフォルニア州にて医療大麻専門医のJeffrey Hergenratherと出会い、日本初の医療大麻専門医を目指すことを決意。
2017年、熊本大学脳神経内科に在籍中、医療大麻に関する啓発団体である一般社団法人、Green Zone Japanを設立し代表理事を務める。


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